大航海時代の冒険者達によって南米で発見された唐辛子は、おびただしい数の品種を生み出しながら短期間のうちに世界中に広がりましたが、その過程で形状・色・風味などを表す数多くの呼び名が付けられていきました。さらに、商習慣上の名称や料理人の慣用名などが交錯して、かなり混乱しています。例えば、鷹の爪という一品種名が総称名として用いられていたり、パプリカやピーマンなどのように唐がらしの仲間でありながら、あたかも別植物のごとく扱われていること等があげられます。タバスコペッパー、カイエンペッパーも混乱・混同されやすい呼称の一例です。
タバスコといえば、タバスコソースの代名詞のように使われていますが、タバスコペッパーはりっぱな唐がらしの一品種名なのです。そしてこのタバスコ種こそメキシコを征服したコルテスが、スペインに持ち帰り、その後世界中にひろがる中で多数の変種を産み出す大もとになった品種だとも言われています。タバスコ種は辛味が特に強い品種で、果実は鷹の爪と同じ位の5〜7センチほどの大きさで、やや丸みがあり、果肉が厚く多汁質であるため乾燥用には不向きとされています。現在ではアメリカのルイジアナ州を中心に栽培されており、これを原料にして発酵熟成された辛いソースがタバスコソースであり、一般的には唐がらしから作られるホットソースとかチリーソースと呼ばれているソースの中の一商品なのです。このタバスコに食塩を加えて一定条件の下で漬け込み、じっくり発酵熟成させ、さらにすりつぶしてうらごしし、最後に塩分と酢を調整すると、とびきり辛く、特有の風味とほどよい酸味でお馴染みのタバスコソースができあがるのです。ところで、タバスコペッパーがメキシコからルイジアナに持ち込まれたのは、比較的新しく、19世紀の半ばのことであり、タバスコソースが商品化されたのは、南北戦争後の1860年代に入ってからだそうです。
一方のカイエンペッパーですが、これも唐がらしの一呼称であることには間違いないのですが、定義については、スパイスの専門家によって幾つもの説明がなされていて、定説は見当たりません。即ち、カイエンペッパーとは、1、一品種名だとしているもの、2、総称名だとしているもの、3、何種類かの辛い唐がらしを混合した粉末製品の呼称だとしている場合もあるなど、まさに混乱の極みといった状況です(因に、3、に関連して本来、総称名として用いられているはずのレッドペッパーやチリーペッパーについても、辛い唐がらしの混合品であると定義されているものさえあり、混乱に拍車をかけています)。習慣上、料理の先生や料理人は唐辛子のことを「カイエン」と呼ぶことが多いようです。従って業務用の唐辛子の商品名は「カイエンペッパー」という呼び名になっていることが多いのですが、中身は唐辛子そのものです。
このように唐がらしの呼称の世界は、様々な要素が複雑に交錯していて、多岐多彩であるため、中々わかりにくいことが多いようです。